「職場でのメンタル不調」と「労災認定」。貴方は誰に相談しますか?
先日社労士会の研修で労働基準監督署の担当官から「精神障害の労災認定」についてレクチャーを受ける機会がありました。私が社会に出た頃には、まだこの種の問題は大きくなっていなかったと記憶していますが、ここ20年位で様相は一変しました。今国会では改正労働安全衛生法案の成立が見込まれており、施行されれば従業員50人以上の事業所に対して、メンタルヘルスの対策を義務付け、全ての従業員を対象に年1回ストレス状態の検査を実施し、希望者には医師による面接指導を行うことになります。今日はその「職場でのメンタル不調」とそれに関連した「労災認定」についてのお話です。
いわゆる「精神障害」に関する労災請求と支給決定について厚生労働省の「精神障害の労災補償状況」という資料を見ると、平成24年度では精神障害による労災請求数は1,275件で、その内475件について労災補償の支給決定が行われています。ただ、これには業務上の精神障害から「自殺」に至った件数は含まれていません。それが同じく平成24年度で、請求169件に対し支給決定が93件となっています。どちらも請求の4割前後が「労災認定」されており、合算した請求数と支給決定数は過去5年で50%増で推移しています。
精神障害の労災認定は労基署が、①認定基準の対象となる精神障害を発病していること、②認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること、③業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと、の3つの認定要件を基に、調査・判断して行います。
また、②の業務による強い心理的負荷が生じる出来事の類型としては、(1)事故や災害の体験、(2)仕事の失敗・過重な責任の発生等、(3)仕事の量・質の変化、(4)役割・地位の変化等、(5)対人関係、(6)セクシャルハラスメントが挙げられており、一般にメンタル不調の原因と考えられることよりも、やや広く捉えられていることがわかります。
件数について、申請数と支給決定数の割合は、業務起因であるという認定を診断書、病歴、出勤簿やタイムカード等の物証の調査に加え、多面的なヒアリング(使用者、同僚、医師など)を基に進めますから、4割が支給決定に至るというのは妥当なところではないかと思いますが、そもそもの申請件数は、自殺の件数から判断すると、それ以外の精神障害についてはまだまだ少なく、本格的に顕在化してくるのはこれからではないかと予測しています。
おそらくは、「メンタル不調」を自ら申し出る事への心理的抵抗、相談先の問題が一番大きいでしょう。社内でそれを主張することで、就労に悪影響を及ぼすのではないか、それではどこに相談して解決すれば良いのかという道筋が見えない。冒頭の法改正によるストレスチェックにしたところで、正しく運用されるか否か不安な面も拭い去れません。
また、労働者として当然に補償を受ける権利があるにもかかわらず、安全配慮義務違反で民事上の損害賠償を請求されることなどを恐れ、使用者側が「精神障害」に関して所謂「労災隠し」をしている可能性も否定できません。建設業の様な労災がつきものの業界では、労働をめぐる民事上の損害賠償に備えた民間の賠責保険などに加入しているケースも少なくありませんが、それ以外の業種ではまだまだそうした意識は低いですから、十分に考えられることです。
いずれにせよ、「職場でのメンタル不調」については、病状については医師、労災その他の補償や職場との問題解決(復職支援等も含む)については、経験豊かで労働者側のサポートを行う社会保険労務士にまずご相談頂くのがベストです。職場と離れた第三者的立ち位置の専門家を活用することで、症状を悪化させず、早期に解決策を見出すことができるからです。
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