前略、あっせん代理の現場から② 「固定残業代制(定額残業代制)は本当に悪か?」
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個別労働紛争のあっせん代理では、解雇・退職強要、パワハラと並んで、未払残業代の問題を多く扱います。
ただ一口に未払残業代と言っても、残業時間を把握せず、まるで残業代を支払う気のない、いわゆる「サービス残業」の問題と、毎月一定額を残業代として支給する「固定残業代(定額残業代)」をめぐる問題の大きく二つに分かれる様に思います。
前者は使用者側の明確な法違反ですから労基署申告の対象にもなりますし、労働者側としては、穏便な社内での話し合いによる解決から、あっせんや労働審判といったハードランディングまで様々な解決オプションが考えられますが、いずれにしても使用者の側に改善を求めていくということになるでしょう。
後者については、一般に大きな誤解があります。制度そのものは本来合法であるにもかかわらず、一部の労働者支援NPO等が、固定残業代制(定額残業代制)を繰り返し痛烈に批判するなどしたため、「固定残業代制(定額残業代制)=悪」というレッテルは定着し、今や「固定残業代制(定額残業代制)」はブラック企業の代名詞にさえなってしまっている感があります。
では本当に「固定残業代制(定額残業代制)=悪」なのでしょうか?
確かに、特定社会保険労務士の視点でチェックしていっても、適法・適正に「固定残業代制(定額残業代制)」を運用できている企業は、現状大変少ないとは思います。しかし、本来合法であるにもかかわらず、運用が不十分だからと言って、ただただ「固定残業代制(定額残業代制)=悪」「固定残業代制(定額残業代制)はブラック企業の代名詞」とこき下ろしているだけで良いのでしょうか。何の問題解決にもならず、労使どちらのためにもならないのも事実でしょう。
勿論、立法によって「固定残業代制(定額残業代制)」を廃止するというアプローチも無いわけではありません。しかし、現行制度を正しく運用するための法改正や助成金などの補充措置を講ずる方が有益と考えられる部分もあります。なぜなら「固定残業代制(定額残業代制)」が正しく運用できている場合には、労使双方にいくつかのメリットをもたらすからです。
①正しく運用されている「固定残業代制(定額残業代制)」では、定額分の時間外労働を超過した場合、追加的に残業代を払うことになるため、人件費アップにつながる長時間労働にブレーキをかける効果がある、
②労使の協議等に基づいて適正に設定された定額分の時間外労働時間であれば、労働生産性を上げる工夫を行うことで、定額分以下の時間外労働で業務を終え、実質的に時間単価アップになる労働者も出てくる、
③組織全体の労働生産性の向上、業務効率化が進み、収益性を高める組織風土が醸成される等がそれらに当たります。
私は労働者側のあっせん代理人として「固定残業代制(定額残業代制)」と向き合いますが、別の労使間では使用者側の顧問等として「正しい固定残業代制(定額残業代制)」の導入を支援しています。
既述の①~③の様な労使双方のメリットを引き出すことができ、株式公開(IPO)準備企業の様に、労働時間管理を中心とした厳格な労務コンプライアンスが求められる場合には、労働者に労働時間決定の裁量が委ねられているフレックスタイム制の導入などと併用で、「固定残業代制(定額残業代制)」を導入していくというアプローチが私の場合は多いと思います。
「固定残業代制(定額残業代制)」をあたまから否定し非難することで、かえって「サービス残業」を助長することになってはいないか。そういう点にも意識を及ぼしていくべきでしょう。
繰り返しになりますが、現在の一般的な「固定残業代制(定額残業代制)」の運用で良いとは、私も少しも考えていません。しかし、少なくとも新たな制度が作られるまでの間は、それが適法かつ適正に機能する補足手段を講じながら、ありものを上手く使う「ブリコラージュ」の視点もあまり軽視すべきではないと思います。
そうしなければ、未払残業、とくに固定残業代(定額残業代)をめぐる紛争は、当面増えこそすれ、減ることはないでしょう。
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