特定社労士「労働者代理人」の視点

大阪・梅田で「労働紛争解決(あっせん等裁判外紛争解決手続の労働者側代理など)」「就活」「転職」を支援するリクルートグループ出身の特定社会保険労務士が一筆啓上!すべての「働く人」に役立つ知識と知恵をご紹介します。

「新卒一括採用」否定論者が語らない「米国の無給インターン問題」

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若者を起業へと煽ることをメシの種にしている評論家、ベンチャービジネスに触れることのみが起業の近道であるかの様な独善的言説をまき散らして、自らに利する様に若年者をミスリードするベンチャー起業家(起業屋??)…。最近、こういった輩の多くが、盛んに「新卒一括採用」への批判を強めています。

 

確かに「新卒一括採用」は世界的に見ても特殊な仕組みです。

 

何の仕事に就いた経験もない学生を、そのポテンシャルのみで評価し採用する仕組みは日本独自のものであって(濱口桂一郎先生の定義による「メンバーシップ雇用」もその背景にある)、職務の新設に伴う増員や欠員補充を新卒採用と中途採用の区別なく行う方が(濱口先生の定義によれば「ジョブ型雇用」)、確かにグローバルスタンダードであるに違いありません。その意味で「新卒一括採用」が、極めて特殊な「辺境」の採用形態であるのは確かです。

 

また「新卒一括採用」は、世代間に不公平をもたらす可能性のある仕組みでもあります。

 

新卒採用システムによって学生は、少なくともこれまで、卒業年次によって就活における好況不況の影響を受けてきました。いわゆる「ロストジェネレーション」の問題も、このシステムによって起こったと言っても過言ではないかもしれません。

 

しかし、それでも「新卒一括採用」という仕組みは、そんなに悪い仕組みではありません。

 

なぜなら、就活という一時的な競争が伴うとしても、それはほぼ同年次者間の競争に限られます。勿論、就活の結果は全ての人に100%満足いくものでないにせよ、「新卒一括採用」は原則としては、企業が人材を育成することを前提にした仕組みであるわけです。いわゆる「ブラック企業」を避けることができれば、この「新卒一括採用」システムによって、日本の若年層は、欧米の若年層と比べはるかにハードル低く、広く就業の機会を得て、基礎的なビジネススキルを習得することができます。

 

これは欧米の人材採用・育成システムとは一線を画すもので、高度成長期に人材の需給が逼迫したことを背景として生まれた仕組みです(余談ですが、若手ベンチャー経営者の集うSNSコミュニティで、「新卒一括採用はリクルート社が金儲けのために作った」と堂々と発言している無知な起業家(起業屋??)を目撃して卒倒しそうになったことがあります(笑))

 

米国では、職務経験のない新卒者を採用したい企業など基本的に多くありませんから、新卒者は、インターンシップによって就業経験を積み、その経験不足を埋めて、職業経験豊富な人材とのコンペに勝って、キャリアの階段を上る必要があります。ですから今、米国ではそれを逆手にとって、無給のインターシップで新卒者をこき使う「無給インターン問題」が社会問題化しており、若年層を深く蝕んでいます。

 

若年層のキャリア始期において、「新卒一括採用の弊害」と「無給インターン問題」どちらが深刻な問題でしょう?

 

前者の「新卒一括採用の弊害」については、既卒2年とか3年までの者を選考対象とすれば、かなり緩和できる問題です。別に今の新卒採用スタイルを大きく変えなくてもある程度解決できます。

 

しかし、もし「新卒一括採用」を日本の多くの会社が止めてしまえば、日本においても米国同様「無給インターン問題」が大きな問題となり、若年層のキャリアデベロップメントは大きく阻害されるでしょう。冒頭に掲げた様な輩は大喜びで無給インターシップの受け皿になります。若年層一般がどうなろうが全くお構いなし。無給インターンの延長線上で、若くて優秀な学生を自分の関係している会社やクラスターに引き込めさえすればそれで良いという、非常に近視眼的なアプローチでしか持っていないのですから…。

 

では実際に今後の新卒採用はどうなるでしょうか。

 

「新卒一括採用」は、ある程度選考対象の幅を広げ、柔らかなものになりつつも、全体としては今後も大きく変わらないと私は考えています。邪悪な「新卒一括採用」否定論者の願望は、残念ながら叶うことはないでしょう。

 

なぜなら、既に労働人口減少社会は加速しており、かつて高度成長期に「新卒一括採用」を後押しした人材の需給逼迫が、今度は新卒者の急減という形で再来しているからです。

 

ここ20年人材育成コスト削減にはしってきた企業も、自社でコストを掛けてでも若い人材を育成しないと先がない。その意識は、中長期的展望のある企業の間では、ここ2、3年確実に広がってきていると感じます。ですから、「新卒一括採用」そのものを崩す要因は、少なくとも「まともな企業」の側にはありません。

 

就活シーズン本格化を前に、売り手市場を背景として、就活生諸君には色々な誘惑があるでしょうが、どうキャリアを積むかという視点でもう一度自らの進路を捉え直して欲しいと思います。

 

「起業志向」も大いに結構です。けれどそのベースになるものを学生時代に既に築いている人はそんなに多くありません。今すぐ起業した方がよいとか、起業の近道としての就活なんてあまり強く意識する必要はないと思います。

 

後になってもできることは、後回しにして問題はありません。今しかできないキャリアづくりとは何かそちらを優先して良いのではないかと思います。

 

年頭にあたり、今回は労働問題の発端になりがちなファーストキャリアの踏み出し方について書いてみました。

 

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