特定社労士「労働者代理人」の視点

大阪・梅田で「労働紛争解決(あっせん等裁判外紛争解決手続の労働者側代理など)」「就活」「転職」を支援するリクルートグループ出身の特定社会保険労務士が一筆啓上!すべての「働く人」に役立つ知識と知恵をご紹介します。

「過労死基準」とは何か?ブラック企業問題の中核を知る。

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新しい成長戦略に盛り込まれた、一定の労働者を対象に成果に応じた働き方を促進する「新しい労働時間制度」の制度設計が、厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会で始まった様です。導入そのものは行われるのでしょうが、問題は過労死対策やメンタル不調対策をどこまでセットできるかだろうと思います。そうしないと笑えない話ですが、日本からエリートを目指す若者がいなくなります。そんなことから今日は、いわゆる「過労死基準」について。

 

ご存知の様に、労災保険は、労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡に対して保険給付を行う制度です。業務上の疾病(いわゆる職業病)に関しては、その発症の時期を特定することが難しい、業務だけでなく労働者個人の素因や基礎疾病と競合して病気が発症することがあるなどの理由により、業務起因性の立証が困難な場合が少なくないため、労基法施行規則35条は別表第1の2に、特定の業務との因果関係が医学的な経験則によって認められている疾病を業務上の疾病として具体的に列挙し、労災保険法においても、この別表に基づいて業務上疾病が認定が行われているわけです。

 

脳・心臓疾患は、業務の過重を原因とする死亡、すなわちいわゆる「過労死」の代表例といえますが、同時にこれらは、上述の別表第1の2の第9号「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当すれば、業務上の疾病として労災保険給付の対象となるものの、他の疾病と異なり、業務起因性についての推定が働きません。そのため、労働者側が、業務と疾病との間の因果関係(業務起因性)を具体的に立証する必要があるわけですが、脳・心臓疾患は、過重な労働の他にも、労働者の素因(体質・遺伝)、基礎疾病、食生活、喫煙・飲酒の習慣の有無、著しい心身の緊張・興奮など、様々な原因が相まって発症するため、業務起因性の認定が非常に困難とされています。

 

そこで厚生労働省は、行政実務で迅速かつ統一的な認定判断を行うために、脳・心臓疾患の業務上認定の基準を定めています。「過労死」が社会問題化するに伴い、認定基準は次第に緩和され、平成13年に出された認定基準では、これまでの認定基準でも考慮された発症直前の異常な出来事や短期間の過重業務に加えて、長期間の過重業務による疲労の蓄積も脳・心臓疾患の発症原因として考慮されるようになりました。具体的には、(1)発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的および場所的に明確にしうる異常な出来事に遭遇したこと、(2)発症に近接した時期(発症前おおむね1週間)において特に過重な業務に就労したこと、(3)発症前の長期(発症前おおむね6か月)にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと、のいずれかによる業務上の過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患を、労基法施行規則別表第1の2第9号に該当する疾病として取り扱うとしています。そして、(3)の長期間の疲労の蓄積については、発症前1か月ないし6か月にわたって1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働がある場合は業務と発症との関連性が強まる、発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合、あるいは、発症前2か月ないし6か月間にわたって1ヶ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合には業務と発症との間の関連性が強い、などの目安が示されたわけです。これを一般に「過労死基準」「過労死ライン」と呼んでいます。

 

これらは労災給付のガイドラインであるのと同時に、労働者側が使用者側の安全配慮義務違反を問い、損害倍諸請求を行う際の目安としても用いられますから、時間外労働を基準内(特別条項付きとするにしても上限を月間80時間まで)とする36協定の締結・届出をし、実態もそれに合わせるのが企業のリスクマネジメントとして推奨されるわけです。ワタミ問題が昨年からかなりクローズアップされましたから、新卒採用を行う様な企業では、現在は基準を超えるような36協定のある会社は少なくなったと思いますが、2011年頃までは、いわゆる就職人気企業225社の調査で6割がこの基準を超えていました。

 

就活、転職時にすべき労働条件の確認の中でも、この36協定内容のチェックは大事なポイントです。どういう形でチェックするかはケースバイケースなので、労働者側社労士にご相談頂くとよいと思います。

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