特定社労士「労働者代理人」の視点

大阪・梅田で「労働紛争解決(あっせん等裁判外紛争解決手続の労働者側代理など)」「就活」「転職」を支援するリクルートグループ出身の特定社会保険労務士が一筆啓上!すべての「働く人」に役立つ知識と知恵をご紹介します。

「解雇の金銭解決制度」は労働者にとって本当に悪か?

 

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数年来議論されている「解雇の金銭解決制度」。かの新自由主義者の巣窟、悪名高き産業競争力会議も、労働時間規制の適用除外や、それをはるかに上回る「ブラック労務の温床」裁量労働制の拡大には必死になっていますが、「解雇の金銭解決制度」の確立については今回も白旗を上げた恰好です。

 

しかしながら、はじめに申し上げておきますが、私は「解雇の金銭解決制度」には、濫用防止策に十分に配慮するという条件付きで、賛成です。こんな事をいうと、人権派というより被害者意識の塊のような一部の労働者救済NPOや一部の労働組合ゴロがヒステリックに大騒ぎするのですが、そういう連中の理想(というか建前)の押し付けが、労働者をいつまでも不利な立場に置いているという現実をもっと客観的に受け止めるべきだと思います。

 

一般論で言えば、現行法下でも「不当解雇」を徹底的に争えば、労働者側が有利で、係争中働いていれば得られたであろう賃金を含んで、年収の2、3年分の解決金を労働者が手にするケースもあるでしょうが、これも実際にはばらつきが大きい。そして徹底的に争うだけの金銭的・時間的・精神的余裕のある労働者は、現実にはほんの一握りしかいません。

 

大半の労働者は次の職を得なければなりませんから、訴訟まで視野に入れることはなかなか難しく、せいぜい行政型や民間型のADR裁判外紛争解決手続)によるか、話し合いで賃金の1~3ヵ月分の金銭解決に至るケースが多いとされます。訴訟による平均的な解決金に比べ、極端に額が小さい様に一見思えますが、実際には訴訟によるケースでも、「係争中に得られたであろう賃金」を除いたネットの解決金は、平均月額賃金の6~8ヵ月分程度になりますので、弁護士報酬を勘案すると、手元に残る真のネットの解決金は月収の3~6ヵ月分といったところです。

 

ですから解雇が満たす要件によって、3~12ヵ月分程度に解決金の幅を持たせた「解雇の金銭解決制度」を確立することは、訴訟に至って負け戦と高額賠償の可能性が高くなる使用者側にメリットがあるだけでなく、悪質な事業主相手の場合は泣き寝入りを強いられる可能性がある労働者側にとっても、少なくとも経済的には現状よりはるかに得るところが大きいと言えます。

 

後の問題は制度の濫用防止策と実効性向上策でしょう。

 

前者については、少なくとも新卒者に対する金銭解雇については、内定取消しおよび入社から3年程度は認めないと明確にすべきでしょう。それから産前産後や育児介護休業と絡めた金銭解雇についても規制をかけないといけません。

 

そして最も大事なのが、後者の「解雇の金銭解決制度」の実効性向上策。これはやはり「未払賃金立替払制度」に準じた方法で、速やかに解決金が支払われない場合は、公的機関が労働者に解決金を立て替え払いし、その機関が事業主に求償する仕組みがセーフティネットとして必要です。その機関が国税徴収法の滞納処分に準じて事業主から徴収する。そうでなくては実効性は上がらないと思います。

 

めずらしく立法政策について書きました。しかし我々はただ法改正を待っているわけにはいきません。現実にできることから手を付けていかねばならない。先日の社労士の補佐人制度、出廷陳述権の記事でも少しふれましたが、現行法の下で労働者側にとってもある程度納得のいく解雇の金銭解決を実現するには、労働紛争にかかわる社労士と弁護士の強固なチームづくりが必要です。それぞれがバラバラに機能するのではなく、シームレスかつ円滑に機能する労働問題解決機能があれば、今でもある程度まで既述の様なところに辿りつくことができる。それは間違いないと思っています。

 

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