特定社労士「労働者代理人」の視点

大阪・梅田で「労働紛争解決(あっせん等裁判外紛争解決手続の労働者側代理など)」「就活」「転職」を支援するリクルートグループ出身の特定社会保険労務士が一筆啓上!すべての「働く人」に役立つ知識と知恵をご紹介します。

「内定取消し」の法的性格を知り、対処法を考える。

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新卒採用が「買い手市場」を脱し、大都市圏を中心に労働需給が逼迫しつつある現在、採用における「内定取消し」もマクロでは急激に減少すると思います。しかし個別の労使の問題としては、いつの時代もそれはなくなりません。リーマンショック時、新卒の「内定取消し」問題がクローズアップされたことがありますが、その際も現象面での報道が多く、その法的性格についてまではあまり深く論じられませんでした。今日はこのお話をしたいと思います。

 

なお、この投稿では新卒採用の内定過程に絞って議論を進めます。中途採用の内定過程は多様なため、一般的に論じることが難しいのですが、新卒採用の内定過程の変形または圧縮と考えられるケースでは、概ね中途採用でも新卒採用に準ずると考えて頂いて良いかと思います。

 

1970年代以降、使用者による採用内定取消しの適法性を裁判所で争う事件が増え、学説・判例が続々出た後、今日では「採用内定」は契約の始期が決められ、加えて解約が留保された労働契約であるとする「始期付解約権留保付労働契約成立説」という主流学説が確立されています。

 

この学説では、企業による採用募集は労働契約の「申込みの誘因」であり、これに応募し採用選考を受けることは、労働者(入社希望の学生)による契約の「申込み」であって、採用内定通知の発信は使用者による「契約の承諾」と考えられます。これによって試用労働契約あるいは見習社員契約が成立する一方、契約には「始期」「解約権留保」が付されるわけです。そのため、内定通知書や誓約書に記載の内定取消し事由が生じた場合、学生が卒業できなかった場合も当然に解約できると考えるのが一般的です。

 

この説によって「内定取消し」が適法か違法かの問題は、「留保解約権」行使の適法性の問題に帰すことになります。内定通知書や誓約書に記載されている「取消し事由」は通常広範囲で漠然とした表現をとるため、判例では「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できるものに限られる」との限定が付される一方、「取消し事由」の記載が部分的で不十分な事案では社会通念上相当な事由があれば、「留保解約権」を行使できるとして事由の補充を行っています。

 

結局「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる事由」が在るか否かという判断になるわけですが、これについて判例は、具体的な事案の判断においては、使用者側の内定取消しに非常に厳しい判断をとる傾向にあります。例えば、リーマンショックの際に生じた「経済変動による経営悪化」による内定取消しについても、一般に「整理解雇の四要件」と言われる「必要性」「回避努力」「人選」「説明(手続きの妥当性)」を求めます。すなわち、景気悪化による内定取消しにおいても、内定者が少なくともこれら四点満たされない場合に違法性を主張するのは妥当なことであると考えられます。

 

使用者側の恣意的な内定取り消しには、債務不履行または不法行為に基づく労働者側の損害賠償請求が認められますし、また内定取消しが仮に止むを得ない場合でも、使用者側が信義則上必要な説明を行わなかったために、損害賠償責任が使用者側に課された判例もあります。

 

では労働者側はこれらを踏まえて、「内定取消し」にどう対処すべきでしょうか。新卒採用を行う企業の多くには、採用内定の法的性格について理解している人はいるはずですが、意外と日本企業の人事マンというのは法律に疎い人が少なくありません。従って、そういう事態に就活生が遭遇した場合、「内定取消し」は既述の様な事由がなければできないものであることは、ひとまず冷静に直接伝えるべきでしょう。そしてその事由を聞くべきだと思います。

 

その上で、納得いく事由がなく、事由を聞いた上で入社意欲を失う様な恣意的な回答であるようなら、損害賠償請求を考えるべきでしょう。これもADR労働審判、訴訟と段階がありますが、和解に至ることが多いでしょうから、できるだけ時間・コストを掛けないように、ADR裁判外紛争解決手続き)か労働審判あたりで事態を収拾するのが得策でしょう。

 

では納得いく事由がなく、入社意向に変わりがない場合はどうするか。この場合、当然事を荒立てたくないわけですから、第一義的には話し合いで解決できるのが良いわけで、冷静さを失わず、採用内定は「始期付解約権留保付労働契約」で「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる事由」がなければ取り消せないとされている旨を伝えるべきでしょう。その主張を整理するために、労働者側でのサポートに長けた社会保険労務士の力を借りるのが良いかもしれません。それで埒があかなければ、前にもブログで取り上げた「労働局長の助言・指導」を使ってみるというのが第二義的なオプションになるかと思います。この場合も労働者側社労士に労働局に同行してもらい、主張を整理して、労働局から内定企業へのアプローチが適切に行われる様に事を進めるのが良いと思います。若干コストが掛かっても効果のあるアクションを起こしたいところです。

 

「内定取消し」は就労していないと言っても明確に労働問題、労働トラブルです。経験豊富な社会保険労務士が、解決のサポートにおいて一番強い味方になる領域の一つであると思います。

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