特定社労士「労働者代理人」の視点

大阪・梅田で「労働紛争解決(あっせん等裁判外紛争解決手続の労働者側代理など)」「就活」「転職」を支援するリクルートグループ出身の特定社会保険労務士が一筆啓上!すべての「働く人」に役立つ知識と知恵をご紹介します。

「未払い残業代」は在職したまま請求可能か?

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「未払い残業代があるので会社に請求して払ってもらいたいが、退職後でなく、在職中でも可能か?」という問題。これについて知りたいという労働者は、少なくないでしょう。

 

一般論としての私の答えは、「簡単ではありません。ケースによっては可能なこともあります」というに留まります。「労働問題解決ブログ」と銘打っているのに、随分歯切れが悪いですね。「大丈夫。任せておきなさい」と言えないのかとお叱りを受けそうですが、いい加減な事は言えません。

 

やはり未払い残業代を請求して支払ってもらうのは、在職中より退職後の方がはるかにやり易いのは間違いありません。しかし在職中でもできるケースはありますし、仮に請求を退職後に行うにしても、在職中だからこそ準備しておかなければならないことがあります。それについては後述します。

 

そもそも未払い残業代がある事自体が違法なわけですから、ちゃんとそれを立証できるなら、「法律上」在職したまま請求することはもちろん可能です。また、それによって使用者が労働者に不利益な取り扱いをすることは「法律上」許されません。未払い残業代請求に取り組んでいる弁護士さん(法律事務所)のHP等には、よくそんな風に表現されています。中には、「在職中の請求の場合、不用意に使用者側と対立関係を深めず、円満に支払いがなされる様に配慮して代理交渉を行います」という様な文言を載せている弁護士さん(法律事務所)もお見受けしますが、本当にそんなことができるんでしょうか?もしそれがかなりの高い確率で可能なら、在職中の未払い残業代請求について、社会保険労務士の出る幕はありません。しかし、このような文言について私はとても懐疑的です。

 

業種にもよりますが、普通の経営者はそんなに頻繁に弁護士さんに接しているわけでも、慣れているわけでもありません。弁護士がいきなり従業員の代理人として残業代請求の交渉にやってきたら、仮に会社側に非があっても、瞬時に「何事か」と緊張・猜疑・対立の構図ができてしまうのが普通です。そういう構図の下では、未払い残業代は回収できても、「法律上」不利益な扱いができないとはいえ、労使に生じた不信感の下で会社に留まって仕事を続けていくことは現実的には困難でしょう。結果的に従業員が使用者側の退職勧奨で退職する様な建付けに持って行って、解決金を従業員が得て金銭解決することとし、そこでも経済的利益の何パーセントかを弁護士さんが得るというのはよく耳にする話です。もちろん全てがそうではないでしょうが…。また弁護士さんでなく、合同労組(ユニオン)から団体交渉を申し入れてもらう場合も結論的には同様で、労働組合法で「不当労働行為」が禁止されていますから、労働者は不利益な取扱いを受けないことになっていますが、在職し続けることは既述の様に難しいでしょう。この場合も結果的に、金銭解決で退職、合同労組(ユニオン)は解決金の一部を得て潤うという着地点になる可能性が高いと思います。

 

確かに未払残業代のある様な会社で仕事をするべきでないというのも正論です。ですが、その場でしかできない仕事があるなど、未払い残業に限らず労働法に違反する部分が若干あっても、在職を望むというケースは決して少なくないでしょう。程度の問題ですが、違法行為がなくなり、職場環境を改善するのであれば、そこで働きたいと考える労働者の方がむしろマジョリティなのかもしれません。

 

在職し続けることを前提に未払い残業代が払われるように持っていけるケースは、

①労働者本人が、組織内の誰かの力を借りるなどして、使用者側と話し合いをする余地があるケース、

労働基準監督署に対して、会社側に実名を伏せる形での申告をし(扱いとしては「情報提供」)、調査・監督に至るだけの十分な証拠を準備して、労基署が「定期監督」を装って調査に入るなどの対応をとってくれた結果、未払い残業代について是正勧告をがなされて使用者側から支払われるケース、

の大きく2つくらいに限定されるのではないかと私は思います。

 

①については、いわゆる「管理監督者」を含め組織内にどんな人がいるか、「未払い残業代」があることを使用者側がきちっと認識しているかによります。理屈立てて話せば耳を傾けてくれる管理職がいて、経営陣との間を取り持ってくれるということは、ないわけではありません。また、未払い残業代が払われない理由は、財務的に厳しいからとか、従業員を搾取して当たり前と思っているからとかいうことばかりではありません。中小企業やベンチャーの場合、株式公開(IPO)準備に入るとか、取引金融機関から管理部門に責任者が出向してくるという様なことでもない限り、人事労務管理がきちっとしている会社の方がむしろ少ない。誰も指摘しないので、「残業代未払い」の認識がないままできているということも現実にあるのです。その辺りを労働者本人が把握することから始めて、話し合いの余地があるかどうかをまず判断します。話し合いができるのであれば、経験豊富な社会保険労務士とシナリオをつくり、話し合いに有益な資料を準備する。社内事情もあるので、全ての権利を主張することは難しいかもしれませんが、以後未払い残業が生じない管理を確立することも併せて約し、金銭解決を図るというケースもあります。

 

②は、調査・監督に入る事自体は労基署の判断によるので、労働者側は証拠集めに注力し、違法が確実であることを示す材料を労基署に提供するのが鍵となります。労働条件通知書または雇用契約書、給与明細、就業規則・賃金規程・賃金台帳・タイムカードのコピー、使用者側とのやりとりがあった場合にはそのメモといったものを揃え、残業時間と残業代の計算を監督官ができる様に整理して提供するのがベターです。既に述べた様に、仮に請求を退職後に行うにしても、「在職中にしておかなければならない準備」とは、このことです。可能であれば調査時にそれらの原本を監督官が入手できる様、保管場所も教示できると好都合です。また、当然未払い残業は申告者以外の従業員にもあてはまるわけですから、聞き取りに応じてくれそうな従業員も把握しおくと更に良いでしょう。ただ、未払残業代の場合は同じ違法行為でも、賃金そのものの未払いとか、解雇予告手当の不払いの様にシンプルではなく、「管理監督者」に該当するか否か微妙な従業員の場合など、「解釈」が絡んで労基署の調査・監督が消極的になって目論んだ成果が上がらないこともあり得ます。ですから労基署を熟知した社労士の力を借りながら、 事前の相談・協議を丁寧にしておくのが肝要です。

 

この様にオールマイティではありませんが、在職のままで未払い残業代を請求したいのであれば、ファースト・オピニオンは経験豊富な社労士に求めるのが自然ではないか。私はそう考えています。

 

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